[第16回]幻声人語 - 死者の魔力はどこへいくのか-

カルチャー A.C.0124年 06月05日08時00分

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5年前のことだ。当時まだ少なかった魔法騎士の取材のため、グランドール王国北西部ある小さな街に訪れた。魔法杖の性能も今より数段低かったので、実戦で剣を振るいながら魔法を有効的に使える人間といえば非常に傑出した存在であった。

中でも私が取材したケインズ・ホープリー君(17)は、治癒魔法を得意とする騎士で魔物との戦闘の際は、戦いながら仲間の傷を癒す優秀な魔法騎士だった。実直で真面目な人柄とその能力から騎士団や街の人から慕われていた。

私の取材にも快く応えてくれ、私が滞在した一週間で他愛のないことを話し合う間柄になった。ケインズ君は「自分オムライスが大好物なんです」と言って、昼食には街の食堂の決まった椅子に座りオムライスを注文することが日課だった。私もつれられて何度か足を運んだが、ケインズ君はオムライスではなく食堂の給仕係の女性に恋をしていたようだった。

取材が順調に終わり、2年が過ぎた。魔王軍の侵攻により、王国北部が破壊されたとの知らせが入った。侵攻したと思われる地域にはケインズ君の住む街も含まれていた。私は当時の上司に侵攻後の街の取材をさせてくれと懇願し急ぎ、街に向かった。

街は、皆が思い浮かべる廃墟の様相を呈していて、生々しくも煙や異臭が放たれていた。しばらく放心した状態で廃墟を歩くと、ケインズ君が行きつけの食堂があったと思われる場所にたどり着いた。

屋根がつぶれて瓦礫で埋め尽くされた中において、ケインズ君がいつも座っていた椅子だけは全くの無傷でそこにあった。何が起きたのかは分からない。でも彼が何かを護ろうとしたことだけは分かった。

それから3年がすぎ、先日。私は再度廃墟となった街を取材で訪れる機会があった。あの時の衝撃は、一生忘れることができないだろう。ふと食堂跡地に赴くと、3年経った今もほこり一つなくただ実直に立ち続ける椅子がそこにはあった。

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