カルチャー

[第18回]幻声人語 -魔物の目にも涙-

魔王領の南西部に小さな村があることを知っているだろうか。その村の住人は、ほとんどが人語を解する魔物達だ。日の出とともに起床し、気温の高くならないうちに畑仕事を行う。昼には小川で釣った魚と木の実を食べる。畑仕事が一段落つくと、村に戻り仲間達とエールビールで乾杯する。気がつくとすっかりと日は沈み、それぞれが心地の良いタイミングで就寝する。

そう。彼らは魔物でありながら、もの凄く人間的な生活をしているのだ。
これは長く続く人間との戦争がもたらしたものだ。よく騎士団の幹部から「最近の魔物は連携して襲ってくるから非常に手ごわい。」と聞くが、まさか生活様式にまで私達の文化が浸透しているとは驚きだ。

昨今では、魔物達が略奪する品にも変化があった。金や女を奪うのは変わっていないが、ラブロマンス小説が盗まれることが多くなったそうだ。


本を読み、物語の世界に耽り感動する。
魔物達が仲間の死を前に戦場で涙する日も近いのかもしれない。